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最高裁判所第三小法廷 平成7年(オ)1625号 判決 1998年9月29日

上告人(原告)

赤坂今日子

被上告人

富士火災海上保険株式会社

ほか一名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人大西英敏の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立ち若しくは原判決を正解しないでこれを論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判官 千種秀夫 園部逸夫 尾崎行信 元原利文 金谷利廣)

上告代理人大西英敏の上告理由

原判決は以下に述べるとおり、第一に経験法則に違背して、誤った事実認定をしており、その結果判決も誤ってしまったもので、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違背があり(法三九四条)、また第二に、誤った事実認定を前提としたため、結局判決に理由不備(法三九五条一項六号)があるから破棄されるべきである。

一 本件の争点

1 上告人は、上告人が被上告人会社と本件契約を締結するにあたり、被上告人江頭が、上告人が姉の車を運転する場合にも本件保険が適用できる旨教示し、その結果、上告人が姉由子の車を運転中の本件事故によって上告人が支払うべき損害賠償金について、右保険が適用されず、上告人がその分損害を受けていると主張している。

2 これに対して被上告人は、被上告人江頭が、誤った教示をしたことは、大略これを認めるものの(細部については後退している部分もある)、この誤った教示は、上告人が、本件契約を締結するにあたり、保険募集の取締に関する法律第一六条第一項一号に違反するものでないと主張する。

その理由は、第一に、上告人は姉由子の車を運転するに際しての適切な保険を選択、契約することができなかったのだから、そもそも上告人には保護されるべき法益がない(つまり損害がない)。損害としては、せいぜい既払保険料であるに過ぎない。

第二に、被上告人江頭の誤った教示の内容は、積極的な言動ではなく、一号後段の告知義務違反であるが、本件において同居の親族の車の場合に右保険が適用されるか否かは、同号における「重要な事項」にはあたらない。それは、第一の理由の他、上告人が本件契約を締結した目的は、主として友達の車を運転する場合に備えてのものであるから、姉の車を運転するかどうかは重大な問題ではないからである。

3 したがって、本件における争点は、主として次の二点であろう。

(一) 被上告人江頭に、保険募集の取締に関する法律第一六条第一項一号に違反する行為があるのか否か。

被上告人江頭が積極的に誤った教示をしたのか、消極的な告知義務違反にとどまるのか。この場合では、上告人が被上告人江頭の誤った教示のために本件契約を締結したのか、ここで上告人と被上告人江頭が、姉の車か友達の車のいずれを主として乗ることを想定していたのかが問題となってこよう。また本件では、そもそも、被上告人会社が免責を主張することが許されるのか。つまり、約款の適用がなく契約責任が認められるべきではないかと言うことも問題となる。

(二) 右違反行為が認められた場合に、上告人にその違反行為に起因する損害が発生したのか否か、つまり、損害の有無、額と違反行為との法的因果関係の有無。

この(二)については、第一に上告人が、本件保険以外の保険に加入できないことをどう考えるか、第二に、約款上、記名被保険者が管理、使用する場合に、記名被保険者が被る損害は填補されないとされているが、これを本件ではどう考えるかが付随的に問題となろう。

二 虚偽説明の有無について

1 保険募集の取締に関する法律の目的は、保険契約者の利益を保護し、あわせて保険事業の健全な発達に資することにある(同法第一条)。

そして、同法第一六条は、損害保険代理店等が本件契約の締結又は募集に関してなしてはならない行為を列挙し、同法一一条により所属保険会社の損害賠償責任を認めている。

この責任は、民法七一五条の使用者責任とは別の法定責任である(神戸地昭二六・二・二一下民二・二・二四五)。

したがって、右の立法趣旨からすれば、同法第一六条一項一号に定める虚偽の説明を禁止する趣旨は、誤った説明により、一般大衆が保険に加入することを防止するものであると理解すべきである。

そこでまず、被上告人江頭がいかなる教示、説明をしたか、あるいはしなかったであるが、同人は、締結時に、同居の親族の車を運転する場合にもドライバー保険が適用されると明確に説明している。

そもそも、上告人が、本件保険契約に加入しようとしたのは、姉が新車を購入したので、主としてその車に乗るためであったことは、訴状で主張しているとおりであり、被上告人江頭もその経過を知っている。

したがって、上告人としては、被上告人江頭が姉の車の場合でも保険が適用されるとの説明を受けなければ本件契約を締結しなかったものであり、結局、被上告人江頭の説明は、積極的な虚偽説明にあたる。

2 第一審判決は次のとおり認定している。

(一) 「被上告人江頭は、被上告人会社の代理店として上告人の姉由子との間でドライバー保険契約を締結したものであるが、右契約の更新日である平成三年八月二〇日の前である同年七月二二日、右由子から電話があり、同女から自分の自動車を買ったので自分のドライバー保険は必要なくなったと伝えられたので、被上告人江頭は同女が自動車保険をつけているか確認したところつけている旨の返事であった。

その際、同女から妹である上告人が免許をとり友達の自動車や由子の自動車に乗るので上告人にドライバー保険に加入させたい旨の申し入れがあったため、被上告人江頭は電話を被上告人に代わってもらいドライバー保険は借用車についての賠償責任保険であり、借用車が自動車保険に入っていればその保険が優先的に適用になる旨の説明をしたうえで本件契約を締結したが、同江頭は普通の任意保険の自動車保険との関係、ドライバー保険は同居の親族の所有する自動車には適用がないこと等については全く説明しなかった。」

(二) しかし、控訴審における上告人本人及び姉由子の証言からは、上告人が本件保険に加入した動機は主として姉由子の車に乗ることであったこと、そして、被上告人江頭もそれを充分に承知の上、保険加入させていることが認められ、平成三年七月二二日の電話の中で、被上告人江頭が単に同居の親族の車の場合にはドライバー保険が適用されないことを告知しなかったのではなく、積極的に適用されると説明したことが認定されるべきである。

この点、第一審判決は一審における同女らの証言をこの部分に限り採用していないが、不自然なのはむしろ江頭証言であって、その認定は不合理である。

またドライバー保険と普通の任意保険や自賠責保険との関係、特にドライバー保険の補充性についての説明についても、被上告人江頭はしていないし、上告人もその知識も理解もなかったことも同女らの証言から認められる。

事故直後の対応で被上告人江頭が気にしていたのは、車両保険との関係だけであり、年齢制限の有無については聞いていない(由子証言)。これは同人が対人、対物についてドライバー保険を第一順位で使うつもりであったこと、ひいては任意保険との関係について理解していなかったことを証明するものであり、結局七月二二日の段階でこれらの関係を説明できるはずはなかったのである。

3 保険契約締結時の姉由子の質問について

(一) 控訴審においては、姉由子が被上告人江頭に対し、妹である上告人が同人の車を運転する場合でもドライバー保険が適用されるかどうか質問したことが問題とされている。それは、姉由子のドライバー保険の加入経緯からして、ドライバー保険の適用対象が、借用自動車についてのものであるとの認識があるとすれば、妹の場合でも当然適用があると認識していたはずであり、そうだとすれば、被上告人江頭への質問は不自然だという観点であると思われる(参照平成五年一二月二一日実施赤坂由子証人調書二五丁以下)。

(二) たしかに右疑問はもっとものように思われる。しかし、平成三年七月二二日の電話の経過は証人由子の第一審における証言でも明らかなとおり、満期通知を受けて更新手続を不要とするのが、主たる目的であって、妹の保険加入の話は全くの付随的な問題であった(同調書七項)。

そして、由子の確認的な質問に対し被上告人江頭が適用があると答えたため、本件のようなトラブルとなったものである。したがって、前記質問内容が不合理であって由子の証言が虚偽であるとはいえない。しかも、本件ドライバー保険は、保険代理店としてベテランであった被上告人江頭でさえその内容を充分に理解していなかったものであり、被上告人提出の乙第四号証、同五号証の年齢制限の事業とは異なるというべきである(引用の高裁判決では、少なくとも契約当初の段階では契約の内容について十分な説明が有り、その内容を了知していたことが前提とされている)。

4 原判決は虚偽説明の事実はないと認定する。その根拠は一、二審における上告人、証人赤坂由子の各証言でも虚偽説明をしたとはいっていないとし、その他本件全証拠によっても右虚偽説明の事実は認められないとしている(理由二(二)参照)。

しかし、第一審における由子証言(七項、一五項)、江頭供述(一〇~一一頁)、原判決における上告人の供述(二~三項、四〇項、四四項)、江頭供述(一〇項、三八項)、由子証言(三~四丁、一〇~一一丁)ではまさに右の事実について肯定する証言がある。

三 告知義務違反について

仮りに被上告人に虚偽説明が認められない場合、問題となるのが保険募集の取締に関する法律第一六条一項一号後段の告知義務違反の有無である。

1 募取法の趣旨について

募取法の目的は保険契約者の利益保護と保険事業の健全な発達にあり、そのために保険募集人の適格性とその募集行為の適性化を意図したものであり、同法一六条が締結又は募集に関する禁止行為を定めたのは保険契約書が保険契約書を締結する際に自己の利益にあった適切な保険に入る(あるいは入らない)機会を充分に保障するためである。

したがって、本件で問題となるような保険契約の契約条項のうち、重要な事項を告げない行為か否かの判断にあたっては募取法の右立証趣旨から判断されるべきである。つまり、「重要な事項」とは「その事項が告知されていなかったことにより契約者が本来締結しえた適切な保険を締結しえなくなるような事項」と解釈されるべきである。

2 そして、一六条一項一号、一一条一項の具体的な規定の趣旨は保険契約者等の利益の保護を図るとともに、保険会社の保険契約者に対する責任の所在を明確にし、もって保険事業における取引の安全を図ろうとするものである(東京地判平三・六・六判タ七六七―二三六参照)。

したがって、本件保険において同居の親族の車を運転する場合に保険の適用がないことは、まさに保険契約を締結しようとする保険契約者にとっては、担保範囲の存否を決する事実であるから告知すべき「重要な事項」というべきである。被控訴人にとってはまさに保険適用を期待した内容であり、このことが話題となっているのにこれを否定しない以上、保険事業における取引の安全からいってもこの事実が告知すべき「重要な事項」にあたらないとはいえないと思われる。

3 最判平五・一〇・二四について(乙第四、五号証)

(一) 被上告人らは、告知義務違反が否定された事例として最判平五、一〇、二四の事例をもち出している。しかし、右判決は、上告棄却の判決であって、その判例としての意義は少ない。しかも、右事例は、本件とは異なり二六歳未満不担保の保険の事例である。したがって、右判決は本件には適切なものではない。

(二) ただ、原審の高裁判決について上告理由と、右判決の被上告人代理人の自ら執筆した判例解説から推測しうることからは次の点は指摘できるであろう。

(1) 募取法第一六条一項の立法趣旨を保険契約者の利益保護と保険会社の責任の明確化とした上、「契約事項のうち、重要事項を告げない行為」を単に行政取締法上のみならず、私法上も法的義務として認知していること。

(2) 重要事項は保険料・保険金に関する事項(減額支払い・免責など)・告知義務に関する事項など保険契約上の権利義務に関する事項をさす。

(3) 右告知は特別の事情のない限り、相当の方法・態様・程度により通常の常識をもった保険契約者等に右事実が認識・理解されうるものであって、右認識・理解のもとに当該保険契約者が契約につき任意の意思決定ができるものをいう。

(4) 告知義務は各契約の内容を誤りなく理解させるに必要な説明をするにとどまり、それ以上のものはサービスないしは営業上の配慮にとどまる。

(三) 右の判旨を本件にあてはめてみれば、右(1)は上告人の平成五年四月二七日付準備書面二被控訴人の主張1(三)(1)の主張と同一であり、本件告知事項か否かが争われている事項は保険金に関する事項であることは明らかであるし、被上告人江頭が契約の内容を誤りなく理解させるに必要な説明をしていないことは証拠上充分に認定できるであろう。

4(一) この告知義務違反については原判決は上告人の姉由子が二一歳未満の不担保特約を締結していたこと、それを被上告人江頭に説明すべきであったこと、同人がドライバー保険に加入していたことがあったこと等由子の一身上の事情を詳細に認定し、また被上告人江頭が由子所有の自動車を運転中の事故には由子が締結していた自動車保険契約により保険金が給付されると理解していたと認定した上(いずれも判決の理由)、これらの事実を前提とすれば被上告人江頭において由子を通じてあるいは上告人に直接に除外規定の存在を積極的に告知ないし説明する義務までは生じていないと判示している。

(二) しかしながら、右認定の最大の問題は、上告人自身の認識ではなく、姉由子の認識を前提としていることであり、姉由子がドライバー保険の内容を約款等を通じて十分に知り、あるいは知り得た(この事実も証拠に反している。被上告人自身もドライバー保険の知識がなかった旨供述している。第一審での供述二〇頁)ことが何故上告人の認識と同様であるのか何らの説明もない。上告人自身、ドライバー保険の内容について今回がはじめてであり、知らない旨供述しており、経験則上も同人の供述の方が信用性が高い。けだし、一般人は保険に加入する際の説明は聞くが、後日送付されてくる細かな約款等は読まないことが多く、姉由子が本件で問題となった除外理由すなわち「同居の親族の自動車を運転する場合にドライバー保険が適用されないこと」について知らなかったことは想像に難くない。そして、上告人は約款が届く前に本件事故を起こしているのであって、被上告人江頭も知らなかった除外理由の知識はないと推認できるからである。

(三) また原判決は姉由子が二一歳未満不担保特約を解除しなかったことがあたかも重大なように認定しているが、右解除は由子の自由であり、そのことが被上告人江頭の告知義務を減ずる理由となることはないというべきである。

5 結局、第一審判決のとおり被上告人江頭には前記法一六条一項一号後段の告知義務違反が認定されるべきである。

四 保険約款第三条但書の不適用(契約責任の主張)

1 本件契約において保険約款第三条但書中記名被保険者の同居の親族が所有する自動車は、保険対象の借用自動車にあたらないとの部分は、契約の内容となっておらず、被上告人は免責とならない。

2(一) すなわち、上告人が訴状及び平成四年一月二八日付準備書面でも主張しているとおり、本件契約締結時に被上告人江頭は、同居の親族の車を運転する場合でもドライバー保険が適用されると明確に説明している。

(二) ところで、被上告人江頭は、被上告人会社の損害保険代理店であって法律上は一定の保険者のために継続的に保険契約締結の代理(損害保険ではこの締結代理商に限られている募取法二条二項)を業とする独自の商人である(商四六条、五〇二条一二号)。

そして、締結代理商たる保険代理商は、保険契約の締結、変更、解除、保険料の受領、減額、支払猶予などにつき権限を有するほか、告知義務、通知義務違反の有無の判断においては、その知、不知及び通知受領は保険者のそれと同一視される(民一〇一条一項)。

したがって、被上告人江頭の理解、説明は被上告人会社をも拘束するというべきである(参考東高判昭四〇・八・四東高民報一六・八・一三九 甲第四号証)。

(三) もちろん、現行法上は、右の代理権の範囲は保険会社と代理商との間の代理権授与契約の解釈によるが、信義則を基礎とした合理的な解釈により、代理権の範囲の認定については、保険契約者側の保護をはかるべきである(西島梅治現代法学全集26第二版五二頁以下)。

3 結局、本件においては、被上告人江頭の契約内容の説明からして記名被保険者の同居の親族が所有する自動車の事故の場合に免責となるとの約款は契約の内容となっていないというべきである。

4 本件契約において保険証書及び約款が上告人に郵送されたのは、本件事故後の八月一〇日であり、このことは、保険契約締結時において保険約款の内容について全く説明がなかったこと(これは被上告人江頭も認めている)、さらに、ドライバー保険が一般的に普及していない保険であること(被上告人江頭もほとんど扱っていない)からして、被上告人会社が上告人に対し、被上告人江頭の契約時の説明にもかかわらず、約款第三条但書の拘束力を主張することは許されないというべきである(参考 札幌地判昭五四・三・三〇判時九四一―一一一甲第八号証)。

5 原判決は右主張は全く認めようとしていないが、再考されるべきである。

五 被上告人江頭の責任について(四一五条、七〇九、七一〇条)

1 契約上の保証責任

被上告人江頭は事故後の言動でもわかるとおり上告人に対し、保険金がでることを保証しており、保証責任を免れることはできない。現に同人は本件について自分に非があったことを認め、一定の金員を支払う旨供述している。

2 不法行為責任

被上告人江頭は、保険代理店として被上告人会社の保険契約締結の代理をしているが、原判決において供述しているとおり、本件契約において保険内容の説明をほとんどせず、しかも、同居の親族の車に乗ることが予定されているのに、本件保険が適用されると明確に認め(あるいは重過失をもって告知せず)、故意に虚偽の勧誘をし、あるいは代理店としての善管注意義務に著しく違反している。

3 そして、右<1>、<2>の行為の結果上告人には訴状請求の原因記載の損害が発生し、その間には法的因果関係が存する。

六 上告人の損害について

1 上告人は、損害として次のものを主張している(訴状参照)

<1>交通事故の示談金 一、〇五〇、〇〇〇円

<2>姉由子の車の修理代 九四五、〇〇〇円

<3>慰謝料 三〇〇、〇〇〇円

<4>弁護士費用 二二九、五〇〇円

2 まず、募取法の責任が認められる場合は被上告人らに対し、右1の<1>~<4>のすべての損害が認定されるべきである。

ここでは<1>の示談金について補足しておきたい。

けだし、前記のとおり、被上告人江頭を通じての被上告人会社と上告人のドライバー保険においては約款第三条但書の「借用自動車」による適用除外は許されるべきではなく、そうであるとすれば、募取法第一条の立法趣旨からして、上告人がドライバー保険によって填補されると期待した損害について被上告人らが責任を負担することは当然である。

保険に無知な一般大衆と保険により多大な利益を得ている保険会社のいずれが保険募集における瑕疵について危険を負担すべきかを考えても本件において被上告人らが免責ないし適用対象外と主張することがいかに不見識かは容易に理解しうるところであろう。

そのために第一審判決も上告人の負担した示談金等を被上告人らが負担すべき損害と認定したものであり、その認定には何の誤りも存しない。

3 次に約款が適用されないとして保険契約が認められるなら被上告人会社に対し、右1の<1>、<2>が債務不履行に基づく損害として認定されるべきである。

4 姉由子の車の修理代について(前記1<2>)

(一) 被上告人らは姉の自動車について生じた損害について一審判決が損害として認定した点をとらえ約款第七条により免責のはずであると主張する。

しかし、この判断にも理由が詳しくないことはあるものの、結論においては何らの誤りも存しない。

(二) 上告人の平成四年一月二八日付準備書面でも触れているとおりこの問題は上告人の対物責任とパラレルに考えるべきである。つまり、約款の規定によれば、姉の車についての損害は免責とされているけれども、本件契約時に被上告人江頭が姉由子の車を上告人が運転する場合でも適用されると虚偽の説明をし(あるいは重大な過失によって告知せず)上告人が同居の親族の車とその他の車とは扱いが異ならないことを信じて本件保険に加入したこと、また、被上告人らに前述した事情により事故の相手方に対する示談金について約款第三条但書の適用外の主張が許されないとするならば、同様にこの第七条に基づいて免責の主張も許されるべきではない。

また、この約款の趣旨が親族間での損害は填補しないことにあるなら合理性は認められるが、さらに、友人等の車を損壊した場合にも免責となる趣旨だとするならば、この約款自体公序良俗に反し無効というべきであろう(そして、本件では友人と親族とで別の取り扱いは許されるべきでないことは前述のとおりである)。

5 なお、被上告人江頭の契約責任もしくは不法行為責任が認められる場合は、契約責任なら<1>、<2>、不法行為責任なら<1>~<4>が認定されるべきである。

七 以上の他、原判決は被上告人江頭の供述を全面的に採用しているが、その証拠採用は偏見に満ちたものといわざるをえない。

もし、第一審判決のように各証言を公平に判断したなら決して原判決の内容にはいたらないといわなくてはならない(事実認定も杜撰である。例えば判決理由二2(二)で、由子がドライバー保険を継続中に事故とあるのは明らかに誤りである。江頭供述第一審五頁、友人の名も渡辺でなく原である等)。

結局、原審は第一審判決で証拠がそろっているのに、全く同様な証拠調べをした上、偏見により結論を先に出した上で、判決したともみえる位一方的な事実認定をしており、その認定は到底経験則に合致しているとはいえないし結局、理由不備をきたしている。

以上

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